金魚ねぷたと弘前の夏の夕暮れと
8月の夕暮れ。
昼間の刺すような暑さがゆるみ、ぬるま湯に浸かったような肌触りの空気である。
例年通りなら、月頭からねぷた祭りが開催されるのだが、新型コロナウイルスの影響で市としての全体運行は中止となった。
運行に参加する訳でもないが、弘前市民として一抹の寂しさを感じながら、帰途についていた今日。土手町でふとこんなものを見つけた。
金魚ねぷたである。
土手町の通りに、てん、てんと距離を開けて彼らは吊るされていた。
丸々とした巨体をわずかに揺らして、かげりを帯びた街角を赤く照らす。
弘前の夏の風物詩、弘前ねぷたの主役は扇ねぷたであるが、マスコットキャラクターといえばこの金魚ねぷただろう。黒々とした目ん玉に、ニヒルな口元。赤地にロウで塗られた水玉に、トレードマークの愛らしく雄々しいヒレ。
どこ発祥なのか、歴史はとんとわからぬ。しかし、夏には大なり小なり金魚が至るところに飾られ、見ない日はない。
金魚ねぷた同士、そんなにソーシャルディスタンスを保たなくてもよいのに、と思いながら遠方を眺めると、土手町全体にわたって金魚ねぷたが吊るされているのがわかった。
日が暮れかけの空は、薄紅色と空色がグラデーションを成している。その空を背景に金魚たちは空を泳ぎ、墨色の建物との陰影を濃くしている。
本来であれば、賑やかなお囃子と雄大な扇ねぷたが、土手町の通りを彩っていたはずなのだが。一匹の金魚が通りを見つめる姿は、あるべき祭りを懸想しているように思えた。
淡い期待を浮かべながら、自身も墨色の景色の一部に溶けて歩を進める。
ふと視線を泳がすと、金魚たちに交ざって、何やら青いねぷたも吊るされている。
こちらは青地に白い水玉だ。河豚か?フグなのか??
よくよく見てみると。
…これは……
遮光器土偶かな……?
思い返せば今年の7/27。青森県にある三内丸山遺跡が、縄文遺跡群として世界遺産に登録されたのだった。
再度通りを見回すと、5分の1くらいの頻度で土偶ねぷたが交じっていた。
弘前市のHPもチェックしてみたが、どこにも土偶ねぷたの記載がない。あるのは金魚ねぷたばかり。
いやはや何とも唐突である。
しかし流行りに乗っかるスタイル、嫌いではない。つい最近まで、アマビエねぷたなんてのもあったしね。
ちなみに弘前市は8/15まで、「弘前ねぷた300年PRキャンペーン」なるものを行っているらしい。
ハッシュタグをつけて、市内のねぷた関連の写真をTwitter、Instagramで投稿すると特典がもらえるらしいので、興味がある方はやってみてはいかがだろうか。
詳しくは公式HPでどうぞ。
歩みを進めるたびに日が暮れていく。
青森県民にとって、じゃわめぐ季節が過ぎていく。
金魚たちとほてった夕暮れを泳ぎながら、確かに ”有る” 祭りの気配と共に、家へ帰るわたしなのである。