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冗長な戯言(たわごと)をつらつらと

今村昌弘「魔眼の匣の殺人」を読んだ

今村昌弘さんの「魔眼の匣の殺人」を読み切った。感想をつらつらと綴る。

※本記事は「屍人荘の殺人」「魔眼の匣の殺人」のネタバレを含みます。

 


魔眼の匣の殺人 屍人荘の殺人シリーズ
 

 

「魔眼の匣の殺人」は前作と趣こそ異なるが、驚くほど脳内が翻弄された1冊だった

殺害トリックがこれほど意味を成さないとは思わなかった。

 

シリーズ第1作「屍人荘の殺人」は常軌を逸脱した設定と本格派ミステリの融合作品。特殊な状況のなか、一定の原則に従い行われる殺人。犯人の意図やトリックが、1つの糸で繋がっている。陰鬱な覚悟をもつ犯人もよかった。

一方今作はとにかくみんな可哀想。

超能力の名の元に、被害者も犯人も生存メンバーも翻弄される。

超常現象にルールはあっても、利用できる”ゆとり”は一切ない。極限状態の中の殺人。もう、ただ可哀想。

読むのに夢中になりすぎて気づくと深夜3時。本を閉じて部屋の電気を落とすと、登場人物が思い返された。己で運命を抗う難しさよ。やるせなさが全身を包んでいった。

 

脱力の理由は作品の内容だけにあらず。

以前自分は、こんなブログを書いた。

 

clton.hatenablog.jp

 

厚顔無恥な話ですよ。被害者・犯人予想。しかも、まあ当たらない当たらない。

印象と偏見でしか記事なのは知っていたが、本を読み進めるうちに死ぬ程恥ずかしくなってきた。犯人は計画性を持ち、4人分手を汚すのかと思いきや、第一被害者があんな死に方。呆気に取られるよ。

記事を消しい衝動に駆られているが、予想自体はしてよかった。

推理小説は期待が裏切られたときが1番楽しい。己の頭で考え翻弄されてこそ醍醐味を味わえる。物語を右から左へ享受するだけの消極さは、改めようと思う。

 

「魔眼の匣の殺人」について、作者の今村さんが紹介している文章を見つけた。

 

大変お待たせしてしまいましたが、剣崎比留子シリーズの第三作をお届けできそうです。今回も班目機関の研究に絡んだ事件を描くことになりましたが、その中で強く感じたのは、私は特殊な設定によるトリックよりも、それによって生じる奇妙な論理や行動の必然性を描くのが好きらしいということです。
今作で葉村と比留子はこれまでの本格ミステリにない状況に巻きこまれ、その行動で探偵と助手の本質を自らに問うことになります。ぜひ彼らの選択から目を離さず、そして皆さん自身が最後まで思考を止めることなく読み進めていただきたい。

 

前作と趣向が異なるのは、作者の好みが反映されたのが理由らしい。

本を読了した知人は「1作目よりラノベっぽい」と感想を述べていたが、自分は展開に驚きの連続だったので満足だ!

確かにワトソン役の葉村と、ホームズの比留子の描写はコミカルな一面がある。他の女子と仲良くする葉村を比留子が嫉妬するシーンなど、効果音が浮んでくるほど漫画にぴったりだ。主役2人は前作で性格も知れているので親しみやすい。文章全体の読み心地もよい。

しかし!探偵・剣崎比留子が、助手・葉村と力を合わせ、事件を捜査し解決するという王道の形式。文章中に張りめぐらされた伏線の数々。大胆な殺人。1巻のうちに美しく集約される謎。死屍累々の有様。そして腹の奥にずしりとくる読了感。

幾重にも重なった展開が、ミステリ好きを満足させてくれる!ザッツエンターテイメンッ!

 

あ~~記憶をなくしてもう1度読みたい。

2021年7月に新作「兇人邸の殺人」を発売されているようだから、絶対読もう。今村先生、これからも応援しています!!!