今村昌弘さんの「兇人邸の殺人」を読了。
「屍人荘の殺人」「魔眼の匣の殺人」に次ぐ、探偵・剣崎比留子シリーズ第3作だ。
今回も…すごいよかった。語彙力が枯れる。熱が冷めないうちに感想を綴っていく。
剣崎比留子シリーズ全3作のネタバレを含むので注意。
読了済の方のみスクロールお願いします↓↓
比留子と葉山の関係、そしてこれから
比留子の特異体質に目をつけた成島社長が、彼女と葉村を事件に巻き込んでいくという、導入からして前作とは違う始まり方。自身が歩を緩めても、事件の方からこちらへ近づいてくるというのは、比留子にとっては神経を擦り減らす日々だろう。
「魔眼の匣の殺人」では、ホームズとワトソンという関係性に悩みを抱えていた葉村だったが、今作のラストではようやく2人の関係性が定まった。体質と向き合い生き残るために、2人にとって最善の結果を掴み取るためにそれぞれの役割を演じる。
悲劇的かつ切ない事件だったが、2人が手を取り合い一歩前進する様子に、晴れ晴れした気分になった。
と油断していたら、最後のページで予想外の人物の登場。
小太りの青年って、今作で体が大きかったのは傭兵・チャーリーだけだったような…と思ってページをめくったら…
いやいやいやいや、どうして???娑可安湖の事件から6か月の間に、一体何があったというんだ。気になりすぎるでしょ。
次回作………固唾をのんで待ってます…
追憶と剛力京
また見事に欺かれた。剛力は追憶の登場人物とは無関係じゃないか。
作者に欺かれたーーー。悔しいけど、これがミステリーの快感だ。
追憶の登場人物は、ケイ・ジョウジ・コウタ。
問題になってくるのは、不木の手にかかって実験体になったのは誰かという点。
わたしは馬鹿正直にもジョウジかコウタだと思っていたよ。
査察前日、ケイが不木の部屋に突入したシーンで、不木の話を聞いていた少年がジョウジだと判明する。うんうん、これは想定内。
実験体を志願したのがコウタだと思わせておいて、裏切ってくる。わかる。
しかしそのあとよ。
ケイが気絶させられ目を覚ますと、自身が望まぬ実験体に変わり果てるなんて。しかもケイ自身は「家族の未来を守るため」に生きているだけだなんて。予想できないよ。
ただ悲しい…。
女性であるという可能性を排除させる、巨人の体躯の描写。
剛力の名前「京」の音読みが「ケイ」のため、剛力京=追憶のケイ だと思わせるミスリード。
2つにまんまとはまりましたね。はぁーーーーーーー。
登場人物紹介の「裏井」だけ名前の記載がないしね。傭兵たちと並んでいたから、気にも留めなかった。
作者の手の上で素直に踊らされたほうが楽しいのはわかってるんだけど、比留子脱出の際の手段といい、切ないよ今回の事件は特に。
明智さん
作中で一番ぐっときたのは、鐘楼に残された鍵を奪還するというシーンのこの描写だ。
ーくっそう。なかなか理屈通りには動かんものだな、人間というのは。
不意に懐かしい声、懐かしい光景が蘇る。
葉村の中で、確かに明智さんが生きている。気付かないうちに行動の指針となり、行く手を導いている。
人を救うことで自らを危機に投じ、「屍人荘の殺人」の作中でも1番の衝撃を生み出した明智さんの台詞が、第3作のあのシーンに突如挿入されるとは。にくい演出ね…。
比留子との関係性に葛藤し続けた葉村が、明智さんの姿を通して、自らの有り方を選び取っていく描写。うん、尊い。
人が真に死を迎えるのは、人の記憶の中から消えたときだという。
現実の死は、現実における死に非ず。ゆえに遺された者は、記憶を持ってその生を繋ぐ。
慰めのような思想だが、自分にも鮮烈に残っている友人の死の記憶がある。
友人は向日葵のように煌々とした光を放つ女性であった。不慮の死を迎えた彼女だったが、彼女もまた家族を助けるために身を投じた人だった。
30代を迎えた今でも、幾度となくあの笑顔を思い出す。彼女はまだ私の心に確かに生きていると感じる。
明智さんとの別れの悲しみ以上に、誰かのために生を全うしたその潔い生き様が、葉村のなかに刻まれていたらなと思う。
今作は悲劇ではあったけれど、確かな希望の芽吹きも感じさせられた。
もちろん次回作への期待も。
小難しく言ってきたけど、めちゃ面白かった!!!読んで。みんな屍人荘から読んで。