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冗長な戯言(たわごと)をつらつらと

ミュージカル映画「ウエスト・サイド・ストーリー」を見てきた感想と、鑑賞のすすめと

先日、「ウエスト・サイド・ストーリー」を視聴する機会に恵まれた。

ミュージカル映画の金字塔として名高い作品を、かの有名なスティーブン・スピルバーグ監督がリメイク。

期待と不安が渦巻くなか、映画館へと足を運んできた。

 

期待点は、DVDごしでしかお目にかかれなかった名作を映画館の大画面で拝める点と、

連れがいたので、興奮冷めやらぬまま感想が言い合える点くらいで、それ以外は不安が大きかった。

 

過度なリメイクで旧作への印象が悪くなるのでは?そもそもスピルバーグ監督はSF映画が主戦場じゃないのか?(無知なわたしは、E.Tやレディ・プレイヤー1以外で、スターウォーズも監督が手掛けたのではないかと思っていた)

 

視聴から約2時間後、そんな阿呆な杞憂はどこかへ吹き飛び、エンドロールが流れ終わっても椅子から立ち上がれないほど魅了されたわたしがいた。

素晴らしいという言葉がちゃちに感じるほど、圧倒された。

旧作を溢れんばかりにリスペクトし、かつ新しいウエスト・サイド・ストーリーがそこにあった。

 

旧作を知る知らない関係なく、たくさんの人に作品に触れてほしい。そう願いブログを書く。

 

www.20thcenturystudios.jp

 

エスト・サイド・ストーリー(以下、ウエストサイド)はロミオとジュリエットを下敷きとした、ミュージカルだ。

ブロードウェイの舞台から始まり、1961年に映画化。2021年にリメイク(今作)と相成った。

映画公式HPより、ストーリーを抜粋。

 

夢や成功を求め、多くの移民たちが暮らすニューヨークのウエスト・サイド。 だが、貧困や差別に不満を募らせた若者たちは同胞の仲間と結束し、各チームの対立は激化していった。 ある日、プエルトリコ系移民で構成された“シャークス”のリーダーを兄に持つマリアは、対立するヨーロッパ系移民“ジェッツ”の元リーダーのトニーと出会い、一瞬で惹かれあう。この禁断の愛が、多くの人々の運命を変えていくことも知らずに…。(ウエスト・サイド・ストーリー|映画|20世紀スタジオ公式

 

 

エストサイドは単なる悲劇のラブストーリーではない。移民問題、マイノリティ差別、人種格差をはじめ、妬み、憎しみ、暴力が存在する世界で、立場の異なる同士が手を取り合うことができるのか。互いを敬い、多様性を認められるか。

キーパーソンであるトニーとマリアの関係性を主軸とし、繊細なテーマが描かれている。

 

ミュージカル映画なので、冒頭から大いに歌って踊ってはする。が、今作はストーリー重視の演出がされている。

ドラマ部分とパフォーマンス部分との境界線がナチュラルというか、歌う必然性があるよう描かれており、ミュージカルが苦手な方も比較的見やすいのではなかろうか。

 

歌と踊りは、あくまで登場人物の人間性や価値観を表す行為であり、上記テーマを体現するためにある。カメラの焦点が当てられるのは表情やしぐさ、服装、関係性などだ。

よって俯瞰でダンスのフォーメーションを見たいとか、ダンサーがいかに高度な技術を持っているか見極めたいなど、舞台的視点でこの映画を見ると、少し期待が外れるかもしれない。

映画館で衝動買いしたスペシャルメイキングブックのインタビューに、こうある。

 

デビット・セイント*1:とにかく、アーサーとは亡くなるまで付き合いがありましたが、僕にこう言っていたんです。「約束してくれ。今後、『ウエスト・サイド物語』のリメイク映画が作られるようなことがあれば、舞台の人間にはやらせないよう頑張って見届けてほしいんだ。舞台と映画は別物だ。あれは映画界の天才にやってほしいし、脚本家にも、僕が書いたものはもとより、僕が書いたものの本質にこそを尊重してほしい」と。

 

とはいえ、歌とダンスの技術も申し分ないので、安心してほしい。

 

 

今作が好きになった理由は、テーマに沿って、どのキャラクターもイキイキと描かれている点にある。

どんな葛藤を抱えているのか、暴力性を秘めているのか、弱さを隠しているのか興味をもってしまう。「捨て役」がおらず、どんの人物も長所と短所が見え隠れする。人間味がある。

それこそ台本と役者の力ではなかろうか。

ナンバー*2とナンバーの間の台詞はかなり短いのに、「あぁ、この人もプエルトリコの血が流れているんだな」とか、「同じ女性同士、分かり合える部分があるんだな」とか、登場人物への理解が深まる描写が山ほどあった。

 

あまりに全員が魅力的なので、群集劇*3を見てるのかと錯覚しそうになった。

誰でも1人は感情移入できるキャラクターがいると思う。

 

 

最後に。

旧作好きの身として、今作の何より素晴らしいのは「旧作へのリスペクトがすさまじい」点だ。

リメイクでありながら、まさしくウエストサイドだという確信を持たせてくれる歌、ダンス、演出。

冒頭のジェッツ団のダンスシーンで見覚えのある振り付けに歓喜し、トニーとマリアが出会う場面でのファンタジックな光の差し具合がまんま旧作で、嬉しくて笑ってしまった。マンボではわたしの人生で初めて、映画を見て体が感動に震えるという体験をした。

 

あの金字塔のウエストサイドを、リアルタイムで、映画館のスクリーンで鑑賞できている。しかも現代最高レベルの監督のリメイクで、素晴らしい役者、スタッフのコラボレーションで。この喜び。

 

そして何より、旧作の持つテーマが、現代にも通ず普遍的なものであると、体現してくれたこと。好きな作品の魂が語り継がれていく瞬間を、この目に焼き付けることが出来て、わたしはとても嬉しかった。

 

作品に初めて興味を持ってくれた方はもちろん、旧作ファンの皆様も(ご時世柄ぜひにとは言いづらいけれど)映画館に足を運んでみてほしい。

エストサイドに生きる彼ら、彼女らの生きざまが、わたしたちの人生に強烈な印象を残してくれるはずだ。

 

 

やっぱりわたしも…もう1回見に行こうかな。

*1:舞台劇原案・原作者であるアーサー・ローレンツの遺作管理者

*2:ミュージカルの挿入歌を指す。ミュージカルナンバー

*3:主人公にスポットを当て、それを取り巻く人々という見方で脇役を描くスタイルの劇ではなく、登場人物一人一人にスポットを当てて集団が巻き起こすドラマを描くスタイルの劇